弁護士の仕事に取り組みながら、スポーツを起点に地域と人をつなぐ活動にも力を注ぐ古結(こけつ)さん。「弁護士法人A-Link」代表として企業法務を担う一方、スポーツ団体の支援や地方創生といった分野で独自のプロジェクトを展開しています。誰もが安心して暮らせる社会のあり方を模索する古結さんに、その思いと見据える未来像について伺いました。
現在の活動について教えてください
弁護士としての活動に取り組む一方で、「スポーツ×地方創生」を軸に、地域と人の“つながり”を生み出す仕組みづくりにも力を注いでいます。
私が代表を務める「弁護士法人A-Link」は、大阪は天満橋、東京、ベトナムに拠点を構え、契約書のチェックや、トラブルが起きた際の訴訟対応など、企業法務全般を担当しています。

その一方で、スポーツ分野にも積極的に関わっており、「一般社団法人BLeSS」ではスポーツビジネスの推進を、「株式会社BorderLeSS」ではアスリートのキャリア形成やメンタルサポートを行うなど、それぞれ独立した活動を展開しています。
また、その他にも「一般社団法人ギフトランド」では、不登校の子どもたちの居場所づくりにも取り組んでいます。
こうした取り組みの積み重ねにより、地域の人たちがゆるやかに交わる“機会”が少しずつ広がってきました。また、最近では、スポーツを軸に教育や農業などの異なる分野を掛け合わせ、地域と関わることも増えてきています。

弁護士という枠を越え、地域の「つながり」や「居場所」をスポーツを通して育んでいく、そんな“地方創生プロデューサー”を目指して、自分なりのかたちを模索しています。
なぜスポーツに関わっているのか
弁護士なのになぜスポーツや地域のことをやっているのか。とてもよく聞かれる質問です(笑)。
もともと小学校から大学まで野球をしていたこともあり、弁護士になった当初からスポーツの世界に携わりたいなという思いがありました。

中学の時は、小柄でしたが勉強も運動も両方できるタイプで(笑)。ただ、所属していた野球部では、ちょっと調子に乗っていたこともあって目を付けられたりして(笑)。人間関係で少し苦労したりしましたね。
その時の経験や周囲の大人の導きで、人のため社会のためになる仕事につきたいと思うようになったのが弁護士を目指したきっかけでもあります。
苦い経験でもありましたが、その後も野球への想いは持ち続けていて、それがスポーツに関する様々な活動につながっています。

子どもも大人も一緒に野球を楽しめる場として「北摂ベースボールアカデミー」の活動を始めたのも、そんな野球への想いがあったからです。
スポーツ業界の課題とは?
スポーツに関わっていきたいと思って、いろいろと活動を始めたんですが、実際に関わってみて感じたのは、スポーツの現場で活動している弁護士って、収益のことをすごく後回しにしているということでした。
「スポーツ業界にはお金がないから」「やりがいがあるから」「収益はあとからついてくるものだから」――そんな理由で、無償やボランティアのような形で関わっている人が多く、僕自身も最初は、「そういうものなのかな」と思っていたんです。
しかし、長年この分野に関わっている先輩の弁護士の方も、やはり同じようにボランティアのような形で活動を続けておられ、これは良くないと疑問を感じるようになったんです。
疑問に感じたのは、私自身が単に報酬目当てでお金が欲しいからということではありません。きちんと仕事をすれば、その対価を受け取るのはごく自然なことです。
それがスポーツ界では十分に仕組み化されておらず、もしこの状態が続けば、優秀な人材が入ってこなくなるし、必要なサービスも業界に届かない。結果として、スポーツ界そのものの成長が妨げられてしまうと思っています。
その辺りから色々とスポーツ界のことを調べていくと、プロ野球のような一部の競技を除けば、多くのスポーツ団体は十分な収益をあげられておらず、経営基盤も不安定だということが分かりました。
たとえば、Jリーグでも全国にファンを持つ人気クラブでさえ、年間売上は約100億円程度で、実は中小企業と変わらない規模感です。
つまり、スポーツ業界は、熱量や価値に比して「マネタイズの仕組み」が追いついていないという課題があると気づきました。
スポーツ業界を根本的に支える仕組みづくり
そんなスポーツ業界の課題に直面したものの、弁護士という立場では、どうしても「法的な問題やトラブルが起きてから関わる」ことが多く、事業の前面には出づらい役割で、できることが限られています。
だからこそ、「もっと根本的な部分からスポーツ業界を支える仕組みをつくれないか」と考えるようになりました。
そうして活動しているうちに、同じような課題意識を持つ会計士と出会い、「スポーツチームや協会の経営基盤を支える仕組みを作りたい」という思いが共通していたため、意気投合し、弁護士2年目の頃に立ち上げたのが、「一般社団法人BLeSS」です。この団体では、法務と会計、両方の専門性を生かして、スポーツチームや協会の“参謀”的な立ち位置で、経営や運営を支援しています。

さらに、アスリートのキャリア形成を支援することを目的に、「株式会社BorderLeSS」という会社も立ち上げました。この会社ではメンタルトレーナーで心理学を専門とするパートナーとともに、スポーツ選手の心のケアや、キャリア支援を同時に行える体制をつくっています。
アスリートとメンタルトレーニングを通して関わると、やはりキャリアの不安とかそういう話が出てくるんですよね。 たとえ金メダルを獲ったとしても、その後の生活が保証されるわけではありません。

そんな現実を知るアスリートの親が、「スポーツで食べていけないから、勉強しなさい」と言ってしまう気持ちもよく分かります。でも、子どもたちが安心して夢を追える環境をつくりたい。
そのためには、「プロになれなくても、その経験が社会で活かされる」ことを、きちんと伝えられる社会であるべきだと思っています。
スポーツ×地域課題解決への挑戦
ある時、関わっていたバレーボールチームから「競技だけでは収益的にもキャリア的にも厳しい」という相談を受けました。
選手の中には、バレーボールを続けながらも将来に不安を抱えている人も多くて、「このままトップを目指して突き進むだけでいいのか?」という課題感があったんです。
また、地域に根ざすチームづくりをしたいという思いもお聞きしました。
そこで、「地域の産業とコラボしながら、スポーツ以外にも選手のキャリアの選択肢を広げていけたら」と考えるようになりました。そのことがそのスポーツのファンを増やすことにもつながるし、地域にとってもスポーツチームをきっかけに新たな関係人口が創出できると考えました。

最初に注目したのが「農業」でした。アスリートって、食べるものをすごく大事にするんですよね。だから、「食べ物を作る人と直接つながる体験」はきっと意味があると思ったんです。
スーパーに並ぶ野菜と、顔の見える農家さんと一緒に作る野菜。その違いを実感してもらうことで、食に対する感謝の気持ちが芽生えるし、食育的な価値もあるなと。
それに、農業って意外と体力を使うんですよ。だからアスリートとの相性も良くて。一方で、農業側では高齢化が進んでいて、若い体力のある人材が求められている。スポーツ選手がもし農業に関心を持ってくれたら、新たなキャリアとしての可能性もあるなと思いました。
ちょうどその頃、僕の母校・神戸大学の農学部の同期に相談したところ、「丹波篠山と関係のある教授がいるから」と紹介いただきました。ご縁をつないでもらって、丹波篠山で農家さんたちと一緒に活動を始めたのが2021年ごろです。


実際に選手たちと一緒に農作業をしてみると、予想以上にいろんな良い効果がありました。自然の中で体を動かすことでリフレッシュできるし、心理的にも前向きになる。
チームで取り組むことで、いつもと違う環境だからこそ出てくるコミュニケーションもあって、それが競技の現場に戻ったときにも生きてくるんです。
そして、なによりうれしかったのが、新たなファン層との出会いです。農業体験を通じて出会った農家さんたちが、試合の応援に来てくれるようになったんです。

バレーボールとは無縁だった地域の方々が、「あの子たち頑張ってたから、見に行こうか」って体育館に来てくれて。そういう“人”に対する応援が生まれるのって、本当に大きいなと感じました。
僕らは「スポーツを通じて地域課題の解決に貢献できたら」というスタンスで行ったんですけど、気づけば逆に支えられていたんですよね。地域の人たちとの双方向の関係性が生まれて、そこに大きな価値を感じました。
地域を意識したきっかけ
私の地元は伊丹市で、都会すぎず田舎すぎない場所で、地域や人とのつながりがとても濃かったです。子どもの頃は、そういうのが少し面倒に感じることもありました。
でも、大人になってから振り返ると、あの関係性ってすごく安心感があったんだなって気づいたんです。近所の人たちが自分のことを知ってくれていて、何かあれば自然に助け合える。そんな環境に支えられていたんだなって。
現代社会では孤独や孤立の問題が深刻になっています。昔みたいな“濃いつながり”まではいかなくても、「顔がわかる」とか「ちょっと挨拶できる」とか、そういう“ゆるやかなつながり”があるだけでも、安心できると思うんです。

私自身もそうした関係性に助けられてきましたし、これからの社会でも、子どもたちがそんな安心感を持てるコミュニティがあったらいいな、と思っています。
今はネットもあるし、物理的な距離を簡単に越えられる時代だからこそ、リアルな地域のつながりだけじゃなくて、オンラインや興味関心をきっかけにした“多層的なつながり”もすごく大事だなと感じています。
場所や手段にこだわらず、いろんな人が自分の「居場所」をいくつか持てるような社会。その方が、きっと誰にとっても生きやすいし、安心できるんじゃないかなって思ってます。
もちろん、家や職場(学校)も大切です。でも、それだけでは息が詰まってしまうのが現代社会。リフレッシュできるコミュニティや居場所を持つことは、本当に大事だと感じています。
趣味の仲間でも、公園での草野球でも、地域のイベントでもいい。「ここなら少し気を抜ける」「心がリセットされる」――そんな場所があるだけで、人って救われるものだと思うんです。
そんなコミュニティの再構築をスポーツを通して実現し、「様々なコミュニティで支え合う地域社会」をつくっていきたいと考えています。
そのほかの取り組み
北摂ベースボールアカデミー

北摂ベースボールアカデミーは、野球を楽しむことから始まる地域密着型のスポーツプログラムです。小学生低学年を中心に、技術よりもまず「野球の楽しさ」を伝えることを大切にし、未経験の子どもも安心して参加できる場づくりをしています。
また、草野球イベントや女性向け野球教室など、大人や保護者も一緒に関われる企画を展開。球場に足を運ぶ人が増え、野球をきっかけに親子や地域のつながりが少しずつ広がっています。
この活動がきっかけで始まったのが、「豊中スポーツまつり」です。
豊中スポーツまつり

もともとは野球やソフトボールを中心とした活動を通じて地域との関係が育まれてきましたが、より多くの人が関われる“お祭り”というかたちへと発展。地元の野球場や公園を会場に、ソフトボール大会や初心者向けのスポーツ体験をはじめ、忍者ナイン、ドローン操縦、ラグビー体験など、多彩なコンテンツが揃う年に一度のイベントとなっています。
協賛や地元企業の支援も不可欠で、地域と連携しながら実現しているこのイベントは、「スポーツを中心に、まち全体を盛り上げる」ために、今後さらにどのように発展させていくか模索しています。
車椅子ソフトボール協会

車椅子ソフトボール協会は、障がいがあってもなくても一緒にスポーツを楽しめる場をつくろうとしている団体です。私は法律顧問として関わっていますが、イベントの企画やメンタル面の支援も一緒にやっています。
大会では健常者も車いすに乗ってプレーするんですが、私自身も参加したことがあり、それがすごく良くて、障がいに対する見え方が変わるんです。
開催には専用のコートが必要ですが、場所の確保が難しい時は駐車場で開催することもあります。地域にこうしたユニバーサルなスポーツがもっと広がればいいなと思っています。
ウィルチェアスポーツ体験会

ウィルチェアスポーツ体験会は、車いすで様々なスポーツを体験できるイベントです。車椅子ソフトボールをはじめ、車いすアメリカンフットボール、車いすアルティメット、ボッチャなど、誰でも気軽に参加できるパラスポーツを実施しています。
障がいのある方と一緒にスポーツをすると、不思議と距離が縮まって、自然と車椅子ユーザーさんへの理解が深まります。
街中で車椅子ユーザーさんを見かけても、「何かお手伝いしましょうか」と声をかけるのはなかなか難しいですよね。何をしたらいいかわからない。でも、スポーツの場で一緒に過ごしていると、「あのときこんなことを言っていたな」「こんなふうにすればいいかな」と、自然に想像ができるようになるんです。
FUKUOKA TAKE ACTION!

地域の企業や学生、自治体と連携し、障がいのある人もない人も一緒に楽しめるスポーツ体験を提供する社会貢献プロジェクトです。

昨年11月、アビスパ福岡のホームゲーム開催時に、FUKUOKA TAKE ACTION!という社会課題解決型プロジェクトに、車椅子ソフトボールも参加させてもらいました。一般の参加者が、車椅子に乗ったり、視覚や聴覚に制限がある状態でサッカーを体験したりして、障がいを持つ人たちの状態を知ってもらうという体験会が行われました。
この取り組みは「見て楽しむ」スポーツ観戦の枠を超え、誰もがプレイヤーとして関われる場をつくりだしている点が特徴で、体験イベントを通じて障がいへの理解やインクルーシブな社会づくりを推進し、地域に新たなコミュニケーションの輪が生まれるきっかけともなっています。
一般社団法人ギフトランド
ギフトランドは、不登校の子どもたちが学校に行くという選択肢以外にも、自分を成長させたり実現できる場をつくる活動です。行政や大企業と連携し、関西エリアで進めています。eスポーツやアスリート等各業界で活躍している方々や不登校経験者を呼んで講演をしてもらうなどのプログラム、一次産業体験を通じて社会との接点を作り、心の教育や心のケアも大切にしています。将来的には大人のひきこもりにもアプローチしたいと考えています。
YouTubeチャンネル 「スポーツ地方創生 こけつまこと」
スポーツの可能性、現在の活動を広めるために、YouTubeチャンネルも運営しています(笑)。ぜひチャンネル登録もお願いします!
今後の目標や、目指す未来について
これからは、地域での取り組みを“点”ではなく“面”へと広げていくことが、大きなテーマです。
これまでも、スポーツチームの支援や教育、農業、福祉といったさまざまな分野で地域と関わってきましたが、今後はそれぞれの活動をバラバラに進めるのではなく、地域全体を巻き込んだ大きな“流れ”をつくっていきたいと考えています。
そのために重要なのが、「地域活動をきちんと収益化し、継続できる仕組みにすること」です。
これまでは「良いことだからやる」「社会のためになるから」という思いで支えられてきた部分も多くありましたが、それだけでは長く続けることが難しい。
だからこそ、関わる人たちにとっても、地域にとっても、しっかりと価値が生まれ、それが循環していくような仕組みをつくっていきたいと考えています。
「監督が怒ってはいけない大会」との連携
その一例として、現在取り組んでいるのが、「監督が怒ってはいけない大会」との連携です。この大会は、子どもたちが安心して楽しくスポーツに取り組めるよう、大人たちが「どう声をかければ子どもが前向きになれるか」「どう声をかければ子どもたちの成長につながるか」を学ぶ、少しユニークな内容になっています。
もちろん、参加チームは勝利を目指して競います。
もともとはバレーボールを中心とした大会でしたが、マルチスポーツで展開していきたいという話を聞き、「それなら、野球でもやってみませんか?」と提案させていただきました。
そして今、「バレーボール&野球のマルチスポーツ版・怒ってはいけない大会」を千里金蘭大学のキャンパスで開催する計画が進んでいます。
地元のチームや大学生、企業、地域の方々にもご協力いただき、スポーツ体験コーナーやキッチンカーも並ぶ、地域全体で盛り上がれるイベントにしたいと考えています。
スポーツが持つ“人を集める力”で地域を元気に
正直、本業の弁護士以外の活動はほとんどお金にはなっていません(笑)。
ただ、「スポーツ界を豊かにしたい」「スポーツを通じて地方を豊かにしたい」という想いは誰にも負けず持っているので、取り組みを通じて、スポーツが持つ“人を集める力”を地域づくりに活かし、地域を元気にしながら、次世代へとつながる持続可能なコミュニティを再構築していく。それが、今の私にとっての大きな目標です。

現在は関西圏を中心に、「ぜひやりたい」と声を上げてくださった地域で活動していましたが、今後は、繋がりがまだない地域にも、「こういう活動があるんですよ」「こんなふうに地域が豊かになっていくんですよ」と広く伝えていきたい。活動の価値や意義を届けていくような役割も、担っていきたいと考えています。
イベント案内
ルクールフェス2025(10/25)
福祉防災を目的とした地域のつながりを創出するためのイベント。謎解きチャレンジ、ダンス、音楽、ヒーローショー、マルシェ、キッチンカー、フリーマーケットなど多彩なコンテンツを盛り込んだ地域のお祭りです。

日時 | 2025年10月25日(土) 10:00〜16:00 |
場所 | 堺市美原区大保13 (Le’coeur/堺市立みはら歴史博物館/美原ふる里公園) |
北摂スポーツまつり(11/23)
北摂スポーツまつり(キッチンカーやマルシェ、スポーツ体験コーナー等も出店予定)のメインコンテンツとして、監督が怒ってはいけない大会(バレー&野球)を実施。大会の参加には事前エントリーが必要だが、スポーツまつりや大会の観戦は当日自由に行えます。
日時 | 2025年11月23日(日・祝) 9:00〜17:00 |
場所 | 千里金蘭大学 |
■古結 誠(こけつ まこと)さん プロフィール
▷経歴
平成18年3月 大阪教育大学附属高等学校池田校舎卒業
平成23年3月 神戸大学法学部卒業
平成25年3月 立命館大学法科大学院法曹養成専攻修了
平成27年9月 司法試験合格
平成28年12月 弁護士登録、大阪市内の法律事務所にて執務開始
令和3年7月 A-Link法律事務所開設
令和6年5月 弁護士法人A-Linkとして法人化
▷主な活動
・弁護士法人A-Link 代表(https://alink-lo.com/)
・一般社団法人BLeSS 代表理事(https://bless-sports.com/)
・株式会社BorderLeSS 代表取締役(https://borderless-japan2020.com/)
・NPO法人北摂ベースボールアカデミー 理事(https://hokusetsubaseball.org/)
・一般社団法人ギフトランド 監事
・スポーツ法学会会員
・大阪弁護士会スポーツ・エンターテイメント法実務研究会所属
・大阪弁護士野球団
・大阪経済法科大学 非常勤講師(「スポーツ法概論」)
・京都医健専門学校 非常勤講師(「スポーツビジネス」)
▷SNS
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