丸善ボタン株式会社の代表であり、北大江たそがれコンサート実行委員代表の岸本 知子さん

服飾付属品の卸売を中心に、不動産業やギャラリー運営などの事業を展開する「丸善ボタン株式会社」の代表を務める岸本知子さん。建築のバックグラウンドを活かしながら、地域の魅力を高める活動にも力を注いできました。中でも、公園を舞台に人と音楽が集う「北大江たそがれコンサート」は今年で20回目を迎えます。街のポテンシャルを引き出すその取り組みの原点と、これから描く地域との関わりについて、お話を伺いました。

目次

現在、どのような活動をされていますか?

主に服飾、特に紳士服の付属品(ファスナーやボタンなど)を扱う卸売業を営む「丸善ボタン株式会社」の代表を務めています。

この会社は祖父の代から続いており、創業から約70年の歴史があります。私はその会社の三代目です。

弊社の事業は他にも、自社で所有している「丸善ボタンビル」の一部をテナントとして貸し出す不動産業や、1階部分を改装して作ったギャラリー兼イベントスペース「マルゼンボタンギャラリー」の企画運営も行っています。

また、2年前にはガレージだったスペースを改装し、オーダーメイドの洋服店も開業しました。

もうひとつ大切にしているのが、毎年開催している地域イベント「北大江たそがれコンサート」です。
地元の音楽好きが集まり、気軽に演奏を楽しめるイベントとして継続的に取り組んでいます。

代表に就任されたのはどんな経緯だったのでしょうか?

代表に就任したのは2007年頃のことです。

関東の大学で建築を学び、卒業後は大阪に戻り、設計事務所で働いていました。

そんな中、ある日、家業を継いでいた叔父から「誰か事業を続けてくれへんかな」と相談をうけました。

幼い頃から会社の風景を身近に見ていたこと、また地域の繊維業が衰退していく中で「自分にできることがあるのではないか」と考え、家業を継ぐ決意をしました。

設計の仕事から服飾業界への転身は大きな挑戦でしたが、建築で学んだ知識が活かせる場面も多くありました。

例えば、丸善ボタンビルの運営やリノベーションはもちろん、ギャラリーや店舗の空間設計にも設計の視点が役立ちました。

また、地域全体の魅力を高めることが結果的に事業の発展にもつながるという考えから、都市デザインの視点を大切にしています。

地域との関わりは昔からあったのでしょうか?

正直なところ、事業を継ぐ前までは地域に対して特別な意識はありませんでした。生まれ育った場所ではありましたが、「住んでいるだけ」という感覚でした。

しかし、大学時代に関東で暮らしたことで、逆に大阪の魅力に気づくことができました。

たとえば、東京はエリアごとの分断がはっきりしている一方、大阪の谷町エリアはビジネスと住まいが混在し、活気と落ち着きのバランスが絶妙です。

また、京都や奈良、神戸といった歴史ある都市に日帰りで行ける距離感も関西ならではの魅力です。そうした気づきがきっかけとなり、事業と並行して地域に目を向けるようになりました。

また、ギャラリーの運営を始めてからは、地域の人々との接点が増えました。

北大江たそがれコンサートを始めたきっかけ

「北大江たそがれコンサート」が始まったのは2005年頃、私がまだ設計事務所で働いていた頃です。

きっかけは、母が関わっていた北大江公園の改修ワークショップ。住民が集まり、公園の使い方やデザインについて自由に意見を出し合う場でした。

当時、海外の公園のビジュアルが分かるようなものを集めるよう母から頼まれたことをきっかけに、私もその活動に参加することになり、結果的に住民の意見が反映された形で北大江公園がリニューアルされました。

その打ち上げを開催しようとした際に、偶然公園におられたアコーディオンの奏者の方に声をかけたり、近所の音楽好きが数組集まったりして、打ち上げの一環として開催された音楽会が、「北大江たそがれコンサート」の始まりです。

その音楽会を偶然見ていた近所の楽器屋さんたちが、「もう少し本格的な音楽会にできるのではないか」と話していたということを耳にし、こちらから声をかけて協力をお願いすることになりました。

そうした楽器屋さんたちの協力もあり、第2回目のたそがれコンサートでは、1週間にわたって複数の会場で音楽会を開催することになり、地域の方がにも喜んでいただく結果となりました。

その後、継続的に開催しおりましたが、やがて地域の店舗やレストランから「うちでも開催したい」と申し出があり、10回目の開催時には最多会場数を記録するほど盛り上がりました。

しかし、会場が増えすぎると運営の負担も大きくなり、現在は適正な規模を意識して調整していますが、「北大江たそがれコンサート」は今年で20回目を迎えますが、今年も開催を予定しています。

北大江たそがれコンサートを続ける原動力は何でしょうか?

私が「北大江たそがれコンサート」を続けている理由のひとつに、公共のスペースをもっと楽しく、豊かに使えたらいいなという想いがあります。

建築を学んでいたこともあって、「まちの空間をどう活かせるか?」ということに、ずっと興味があるからです。

学生時代によくヨーロッパを旅していました。そこで感じたのは、広場や公園、美術館のロビーといった場所が、自然に人々の集まりや文化活動の場になっていること。

パリの街では、何も特別な建物を新しく作らなくても、今ある場所を少し工夫することで、とても素敵な出来事が生まれているんです。

一般的には競技場で開催されるのですが、パリ五輪の開会式は、パリの街全体を会場にしていました。それは日常的に文化活動がまちの中に根づいているからこそできたことだと思います。

シンガポールの植物園も記憶に残っています。緑いっぱいの中にレストランや結婚式場があって、訪れた人が思い思いの時間を過ごせるようになっていました。

「公共の場所って、こんなふうに使えるんだ」と驚きましたし、日本でももっと自由な使い方ができたらいいのにと感じました。

「北大江たそがれコンサート」では普段は静かな公園に、一晩だけ舞台や照明を持ち込んで、音楽が響き、人が集まる。そしてまた、翌朝には元の静けさが戻ってくる。この一瞬の“特別な時間”を、まちの中にそっと生み出せることが、とても嬉しいんです。

今後はどのようなことを考えていますか?

街にはまだまだ多くのポテンシャルがあると感じています。

たとえば「北大江たそがれコンサート」は、公園や楽器屋さんという存在がたまたま繋がったことで、それぞれの力がうまく活かされ、形になったものです。

このように、街には専門的な知識や潜在的な力を持つ人が多くいるはずですが、それを地域に生かすきっかけが少ないのが現状だと思います。

かつては、地域の人がどんな職業なのかをお互いに知っていて、助け合える環境がありましたが、今では、ビルに入っている会社がどんな技術やアイデアを持っているのかもわからなくなってきています。

そうした力も街の大切なポテンシャルであり、活かしていくことができれば、もっと魅力的な地域になるはずです。

これからは、そういった情報やネットワークをうまく活用しながら、街のポテンシャルを活かす活動が広がれば、きっと楽しいものになるだろうと思います。

■岸本 知子(きしもと さとこ)さん プロフィール

▷丸善ボタン株式会社 代表取締役
大阪・天満橋を拠点に、以下の事業を展開
・服飾付属品(ボタン・ファスナー等)卸売業
・丸善ボタンビルの不動産賃貸業
・ギャラリー兼イベントスペース「ボタンギャラリー」企画・運営
・オーダーメイド洋服店の開業・運営
会社HP
Instagram

▷北大江たそがれコンサート実行委員会
2006年、長年にわたる地域住民の活動が実り、北大江公園(大阪・天満橋)がリニューアルオープン。
その記念として、同年に公園で初の音楽会を開催。以降、地域に集まる弦楽器店・工房、住民、企業、店舗、演奏者、町会、まちづくり実行委員会が協力し合い、毎年秋に「北大江たそがれコンサートweek」を開催。2025年で記念すべき第20回を迎える。
北大江たそがれコンサート公式HP

※掲載されている情報は、掲載時点のものです。時間の経過により実際の情報と異なることがありますので、最新の情報は掲載店・施設様へ直接ご確認をお願いいたします。

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この記事を書いた人

TSUNAGuuu(つなぐー)編集部です。この街の魅力をざっくばらんに発信していきます。

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